東工大物理を30点から135点へ飛躍させた話 2

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本記事はの後編である。

浪人時代:駿台予備校へ


現役時代の不合格だった原因は様々あったが、物理の点数の低さもその一つであった。2016年度の東工大物理により、今までの物理の勉強は間違っていた・無駄であったと思い知らされた。そこで、根本的に何かを変える必要があると感じた私は駿台で浪人生活を送る決心をした。
なぜそこを選んだかというと、駿台の物理は伝統的に微積分を普通に使ういわゆる「微積物理」を学べることを知っていたためである。
現役時代には微積をなるべく使わない、教科書通りのいわゆる「公式物理」で勉強してきたわけだが、それによる貧弱な理解で30/150点という悲惨な結果となってしまったと感じていた。少し不安はあったが、1から全く新しい勉強法をすることにした。

駿台では私は主に、小倉正舟という講師の授業を受けていた。(どのような方かは「"https://pchira.wicurio.com/index.php?小倉正舟 」にあります。)
小倉師は1年を通してずっーーーーーと口癖のようにおっしゃていたことが2つあった。それらは物理を勉強する上で核心を突いた、まさに真理だと私は今でも思っている。
そのことを2つとも紹介したい。

『大人になろう!〜物理の目的は未来予言である〜』
物理の目的は注目物体の未来予言であり、その根拠はその単元における基本法則である。どのような問題でもまずはその第一原理である基本法則から出発し、未来予言を行うこと。そしてそれが自立してできるような「大人」になること。例えば、力学では運動方程式から出発し、時間的追跡または保存則により未来予言を行う。電磁気学でも回路の方程式から出発し、力学と同様に時間的追跡または保存則を考える。など各種設定により成り立つ公式をバラバラに覚えて、それを問題ごとに当てはめるような短絡的な学習ではなく、どのような問題でもまず基本の物理法則(運動方程式や回路の方程式など)から出発し、話を展開していくことが重要であるというわけである。

『問題研究をしよう!』
問題を解く際には、「この問題について1週間後にレポートを提出しなさい」と言われたと想定して、できる限りの考察をすること。例えば力学の問題では、運動方程式を記述しようとすることからスタートし、その後は時間的追跡ができるか否か、そして保存則(運動量・エネルギー・角運動量)は成り立つかどうかを共に考察する。そして、得られた結果はグラフに描きおこし、極限操作を施すことで定性的な考察を行い、物理的「直観」を養うことである。
このように問題で問われていることのみ考えるのではなく、問題設定から考えられる未来をすべて予言する、まさに問題を「解く」のではなく「研究する」ことが物理的直観を後天的に得る唯一の方法である。そしてそれが物理の得点を上げる近道である。
最後に仕上げとして、問題研究の後は実際に聞かれていることのみに答えるために必要な最低限の情報を取り出す練習を行うこと。試験本番で問題研究はしてはいけない。

浪人時代の勉強法


上記の通り、小倉師の授業は必ず第一原理を記述することから始まり、そこから保存則などの定理や各種の公式が展開されていく「これが問題研究というものだ」と訴えかけてくるような私にとっては衝撃的なものであった。扱う問題設定を読み上げた後は、現象の未来予言をするために3,40分近く問題研究を黒板にどんどん書いていく方であった。その間、基本的に各問題に目を向けることはなく、一通り問題研究を終えた後、最後に聞かれているから仕方なく解くという感じであった。ちなみに、解答自体は問題研究の最中にほとんど自然の流れで求めている場合がほとんどであった。

駿台入学後すぐに私はこの小倉師に完全に魅かれていた。師の言葉を全面的に信用し、言われた通り、絶え間ない問題研究により自立して未来予言ができる大人になることを目標に勉強を始めた。
そのためにやることは簡単であった。小倉師がやった問題研究の板書ノートを白紙の状態からコピーできるまでひたすら同じ問題を解いていた。
たったそれだけである。物理に関して、私は参考書を使って勉強したことは基本的にない。主に使っていたのは駿台の物理の授業で使っていたテキスト「物理S」とその問題研究を板書したノートのみである。その駿台のテキストの出来が良いことも多少はあるが、市販の問題集にも載っているような有名な問題設定ばあかりだったが、メインはそれだけ十分であった。

駿台文庫から出版されている「理系標準問題集 物理」の雰囲気は若干駿台のテキストに似ている。気になる方は↓
理系標準問題集 amazon

その頃には完全に信者となっていた私は夏期・冬期・直前講習なども小倉師の担当する講座は全て受講し(物理特講Ⅰ・Ⅱ、東工大物理など)、その年の第2回駿台模試は解説解答冊子の書体を見れば師が作問者であることはすぐにわかった。
1年を通して、通年のテキスト・講習のテキスト・模試の問題研究を永久にひたすらしていた。同じ問題ばかりを解いていたので10月あたりになると、ある程度答えも覚えてしまっていたのだが、それでも構わず省略せず徹底的に基本法則から出発してすべて解き直していた。(解いている最中にも9割方内容を理解・暗記してしまっているにも関わらずである)
入試でよく言われている『基礎をしっかり固める』とはこのレベルのことを言うのではないのだろうか。『基礎力』、それは私が現役時代に考えていたような数日勉強して身につくようなヌルいものではなく、数ヶ月単位での反復によってのみ後天的に獲得できるものであると私は考えている。

10,11月になってくると勉強の成果がハッキリと表れてきた。特に大きかったのは、初見の問題に対して「これは難しいな・簡単だな」という感情を抱くことがほとんどなくなっていた。というのも問題設定こそ変われど、やるべきことを明確に把握していたため、もうすべて同じに見えていた。
どのような問題に対しても第一原理から出発し、最適な方針で話を展開させる(大まかにいうと、時間的追跡するか保存則を考えるかである)
やるべきことは、いつもの問題研究と変わらない・同じことをするだけであり、その訓練をこれまで徹底的にしてきた私にとっては造作もないことであった。問題設定はいつもより複雑な場合がほとんどであったが、その差異は大した問題ではなかった。計算や字面が少々大変になるだけで、本質的なことはいつもと全く同じである。現象を支配している物理法則は同じなのだから。
現役時代でやっていたように、似たような問題設定を思い出し、そこで使ったはずの公式に当てはめるような虚しい・短絡的な学習では辿り着けなかった領域であろう。
なんなら回答中に『え?これだけしか聞かないの?あー、俺ならもっと話を広げられるのになぁ…もったいないなぁ』と謎の感想を言う余裕さえあった。そしてもちろん帰ってすぐに実際にそれの問題研究に取り組んでいた。

そのような調子で勉強を続けていき、12月くらいには物理の仕上がりはほぼ完璧に近い状態であった。この時期からは10月くらいから少しずつ始めていた過去問研究に本格的に移行していた。駿台文庫から出版されている東工大の青本と実戦模試演習(過去の東工大実戦模試)の問題研究を入試本番まで相変わらずやっていた。幸運なことに、東工大物理の解答執筆者も小倉師であった。さらに、本屋で売っているものは5年分しか収録されておらず、もう売っていない過去の青本はメルカリで購入してそれぞれ20年分くらいは所有していた。入試直前期まで続けることで、問題と出題年度はほとんど把握し、もちろん解答も自力で展開できるほど繰り返しやっていた。

一貫して問題研究を続け、仕上がりが完璧に近い状態で2017年度の東工大入試に臨むことになる。

2017年度 東工大入試


2017年度の東工大物理は難化した2016年の反動からかかなり易化した年であった。結局この年、私は135/150点を叩き出し、東工大に合格することができた。解いた直後の感触では『もう全部解けたわ、満点確定!』と思っていたが、よくよく見返してみると悔しくも電磁気学の電流の時間追跡の$I-t$グラフを勘違いで間違えてしまっていた。未来予言の結果の象徴である$I-t$グラフでミスを犯してしまったことが私の唯一の後悔である。
東工大物理を30点から135点へ飛躍させた話 2



現役時代はそれほど得意ではなかったが、浪人を経て物理が最も得意・好きになっていた。そして東工大入学後には物理学を専攻することになる。
このような飛躍の要因はズバリ『たゆまぬ問題研究』である。普段の勉強から第一原理を出発点にした問題研究を続けることこそが、物理の上達への道なのではないだろうか。

以上、私の受験生時代の経験談である。物理を勉強している方の参考になってくれれば嬉しく思います。


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