今まで色々と生徒から受けた質問に答えてみました

カテゴリー │授業内容教育研究

薗田です。

今まで色々と生徒から受けた質問に自分なりに考えて答えてみました。



Q.医学部志望ですが,某掲示板で,医者の今後は決して明るくないというようなことが書かれていました。実際のところどうなのでしょうか?

A.人命を扱うという使命感がなく,給料や勤務地といった外的条件に大きな関心をもってしまうようであれば,医学部に進むべきではありません。これをまずはじめに述べておきます。

 その上で,あえて申し上げるならば,この業界がこれから試練に突入するというのは本当のようです。その理由は,次のようなものです。

(1) 医師どうしの労使問題

 医師過剰ということは,病院経営者にとっては,人件費の面から見て都合のいいことです。「開業し医師を雇う側」と「雇われる側」の二極分解が進み,「勤務医」のステータスは地に落ちるでしょう。これはいわゆる「イソ弁」の問題と同じです。もちろん都市部では,新規開業の余地はほとんどありません。病院の倒産も増えています。

(2) 能力主義

 これまで,医師や弁護士は資格試験に通りさえすればあとは一生安泰だ,と思われてきました。しかし人材が余ればそこに競争が発生するのは必然です。病院の中で頭角を顕わし,患者の信望を集め,診療実績も高ければ,たとえ多少の借金をして開業しても成功するでしょうし,支援してくれる人もいるでしょう。しかし,来る日も来る日も単調な診療業務を行う中で,やる気をなくしてしまう医師は数多いと聞きます。さらに,どんな仕事も完全にマニュアル通りとはいかないものです。思いがけず特殊な症例だったにもかかわらずマニュアル処理をして,医療ミスという黒星をつけてしまうこともあります。このあたりはサラリーマン社会と全く変わりません。

(3) 情報化の負担

 医療全般を統括してリーダーシップを発揮するのが医師の役割……というようなことが医学部の紹介に書いてありますが,現実は全く逆で,医師は医療機器メーカーと製薬会社のロボットだ,という指摘があります。これは医療の高度化に伴う現象としてやむを得ないことです。今後は「リーダー」という意識よりもむしろ,専門家や技術者の「忠実な手足」となる謙虚さが求められるという意見さえ聞かれます。このような先進の職場で,否応なく序列化されていくのが今後の医師の姿なのではないでしょうか。

 いずれにしても「安定」を求めて入っていく行くべき業界ではないでしょう。

Q.入試を控えて急にスランプに陥ってしまったようです。どうしたらいいでしょうか?

A.スランプというのは,勉強を進めようとする意識の強さと,現実の勉強の量が不整合を来すことから発生し,「どこか空回りしているように感じる」というものです。勉強の量が伴えば解決するものですから,とにかく勉強時間を作って,「安心」するまで学習してください。早起きするのがポイントです。「今日はこれだけやった」という実感を積み重ねていくうちに,普通,スランプは消えます。

 ところで,念のために申し上げると,問題は,「勉強が手に着かない」というケースです。これはスランプというより精神的な疲れです。精神医療の世界では,日常生活に全く支障がないのに,こと勉強や仕事となると逃避するケースを,特に「退却神経症」などと呼んで,いわゆる「精神病」とは区別し,独自の対策を立てようという分野があります。「ただの疲れ」なのか,それとも「やや慢性化・長期化している」のかを判別し,もし後者であるならば専門家に相談されるのがよいでしょう。

Q.「実況中継シリーズ」のような参考書は役に立つのでしょうか?

A.参考書には,大きく分けて4種類あります。

1 全範囲をまんべんなく学べるもの。「チャート式」を筆頭に,いわゆる普通の受験参考書がこれにあたります。これは,教科書と並んで,受験生としては必須と考えたほうがよいでしょう。

2 導入型の厳選もの。「○○実況中継」や「テーマ別○○」のようなものです。とりあえず重要事項をてっとり早く先に勉強しようというものです。パフォーマンスなどがあっておもしろいという利点はありますが,入試の70%を占めるといわれる基本事項をカバーすることは到底できません。こういうものだけやって安心しているのは自殺行為ともいえます。必ずあとで,1のタイプのものでフォローすべきです。

3 範囲外・興味本位もの。マニアックな参考書です。これらは,普通の勉強をちゃんとやって実力を付けてから楽しむものです。高校物理の公式を使いこなせないうちに微分方程式に走ったり,部分積分の計算が危ういうちに偏微分に時間を費やしたりするのは,やはり自殺行為です。中途半端な専門知識を振り回しても点にはなりません。まずは普通の解法を覚えるべきです。

4 要点集。いわゆる要点集のほかに,単語集や分野別のものが該当します。当然網羅性はありませんが,知識の整理に有用です。中にはカラーで,しかもかなり詳しいものもあります。

 結論です。1の参考書を一通り終わらせることに努力を集中すべきです。ほかのものはそのための補助的手段に過ぎません。とにかく最低限の知識量を確保しないと,安心して受験できません。入試問題の7割は標準問題なのです。これをクリアするのが最も早く得点を伸ばす方法です。

Q.受験は要領だといわれますが,そういうのも効いてくるのでしょうか?


A.「要領」の種類にもよりますが,結論からいうと,かなり効いてきます。たとえば解けなかった問題に印を付けておく,忘れた頃に確実に復習する,といった学習計画上のテクニックは重要です。ただし,その「要領」を知るためにあまりに多くの時間を費やすのは問題です。

 「要領」は,人から言われたからといってすぐに身につくものではありません。基本的には勉強をたくさんしながら,どこを改善したらよいか考えて,自分自身で身につけていくのがいいでしょう。

Q.将来自分も就職すると思うのですが,どうして企業は学歴(大学名)にこだわるのでしょうか。掲示板とか見ていると,大学名でほとんどすべて決まってしまうようなことが書いてあったりしますが,実際はどうなのでしょうか?

A.学閥というのは確かにあります。ただ,これは政治的圧力団体が政党を作ったり,あるいは親戚一同で閉鎖的に企業を経営したりするのと同様,避けられない現象です。これは一見,「個人的能力で勝負したい」と考える人にとって,足枷になるように見えます。

 ところが,同じ学閥の内部では,やはり常に個人間の競争が展開されています。個人の能力が無効になるわけではありません。そこで,「学閥や一定の閉鎖集団は,個人の能力を発揮する空間として利用すべきもの」と考えてみてはいかがでしょうか。

 さて,ご質問の内容には,もう一つの論点があります。大学名の見劣りを,その後の努力で挽回できるのかどうかという点です。これを考えるには,企業の採用の動機を考える必要があります。

 企業が大学名を重視しているように見えるとき,実はこれは宣伝効果を狙っているのです。現在の日本では,一定規模以上の大企業であれば,経営状態だけでなく,有名大学から何人採用したかが「一流度」のバロメーターになります。大学生に配られる会社案内では「採用実績大学」の欄がありますが,これが大学生の企業評価に少なからぬ影響を与えます。従って,企業が有名大学卒を採用するとき,必ずしも能力を買っているというわけではありません。彼らに払う給料は広告費に近い性質のものでしょう。そのような宣伝効果においては,大学名の見劣りを挽回することは不可能です。

 しかし,もう一つの尺度,つまり実務の視点から見れば,当然実力での挽回は可能になります。大企業とて宣伝効果だけで生きていくわけにはいきません。有名大学ばかりの「一流企業」が実は烏合の衆で大型倒産する,なんてこともありうるわけです。実力ある人材を採用せざるをえない以上,大学入学後に蓄えた実力は十分機能します。

 大学名と実力の関係は,宣伝部門と製造部門の関係にたとえられます。全く性質の異なるもので,どちらも企業にとっては重要な戦力になるということです。


Q.バイオ関連の企業に就職したいのですが,この分野の将来性はどうでしょうか。また,どの学科に進学するのがよいでしょうか?

A.興味があるなら,将来性など考えずに突進すれば,必ず何らかの成果は得られるでしょう。と,それだけでは回答になっていないと言われてしまいそうなので,いちおう書いてみます。

 企業においては,近年のバイオ関連研究所・工場の閉鎖は目を覆うばかりのものがあります。切り捨てられたバイオ部門からは大量に人材が流出して余っていると言われます。この分野では,研究の労力の大部分は地道な分析操作と人海戦術的な試行です。なかなか新商品に結びつかないので,不況になると企業はいきおい,既製品のマイナーチェンジに走ります。

 既製品とは,医薬品以外には,石鹸,洗剤,漂白剤,塗料,調味料,油脂,香料,飼料,ビールなどです。これからバイオ関連に進む人は,遺伝子よりもこれらの生活色豊かな商品を対象にすることになると思います。バイオらしい分野としては,農畜産物の品種改良がありますが,実際にバイオ系学科の卒業生の大部分は国内または外資系の大手メーカーに就職するでしょうから,やはり量販系の生活用品を扱うケースが圧倒的に多いでしょう。

 ところで特に脚光を浴びているのが,高付加価値製品たる医薬品です。この分野に参入しようとする企業は多く,煙草メーカーや菓子製造業者などが名のりを上げています。

 医薬品の研究では,まず何より有機合成化学の知識が必要になります。そして生化学や分析化学,薬剤の知識が続きます。ゆえに,いわゆる遺伝子操作をともなった「バイオテクノロジー」よりも,化学の基礎をしっかり学ぶのがいいでしょう。もともと化学は基礎学問でありながら,応用にダイレクトに結びつく分野です。そこで,流行のバイオ系学科にこだわらずに,素朴に昔ながらの化学・薬学系学科に進んでも全く差し支えありません。

 なお,製薬会社では,研究が高度なこともあり,これを主導するのは東大などの大学院出身者が多くなります。通常の大学のバイオ系・薬学系出身者は,むしろ営業に回される傾向があると聞いています。

 このほかに将来性のありそうな分野としては,生態関連素材があります。人工臓器や医療器具など,生体適合性素材の開発です。ここでは有機化学の他に,特に高分子化学が重要になります。


Q.受験生は将来の進路よりも大学のネームバリューで受験校を決めているように思えます。それでいいのでしょうか?

A.実際問題として,将来の志望は大きく変動する可能性があります。その意味で,できるだけ可能性を広げておくために有名大学を選ぶというのは一理あると思います。将来の希望が確定している人にとっては大学名はあまり意味はないでしょう。目的に見合った大学が自動的に浮上するはずです。

 では,なぜ多くの人が具体的な進路をはっきりと決めずに入試に突入してしまうのでしょうか。

 そこには,「エリート労働」という考え方があります。すなわち,専門的な技術は現場労働者に任せ,「彼らを統括・管理する人も必要」という素朴な考え方です。そういう管理者にとって高度に専門的な知識は必要なく,「現場労働者が何をできるか」だけを把握して使いこなせればいいのです。このような「エリート労働者」は組織を管理する立場上,利益の多くを取ることができます。肉体労働よりも明らかに仕事は楽です。社会的地位も高いとされます。

 このような「労せずしてすべてに恵まれる」エリートを目指して受験生は試験に挑むのです。ただし,大企業でも倒産する昨今では,ひとたび組織を失えば,有名大学卒といえど,現場労働者よりもはるかに無能な存在であることに気付かされることもあるでしょう。

 道徳的判断はともかくとして,貴重な若い時期に抽象的な大学名を目指して抽象的な努力をする場合,犠牲にするものも多いということは認識すべきだと思います。

Q 理工系学部では物理学科の偏差値が高いですが,なにか理由があるのでしょうか?

A 物理学は大変魅力的な学問です。哲学的な感性と論理力,そして数学的な直観を駆使して世界を説明しようとする物理学は,「究極の自然科学」と呼べるかもしれません。しかしながら,そういうことをわかって志望している受験生は少数と思われます。現状では,物理学科の人気は多分に,情報不足と既成事実によるものと思われます。

上位受験生といえど,将来の就職や仕事について詳しい情報をもっている人は少なく,いきおい, 「点数の高い学科即将来有利」「高点数即無難」という発想で選んでしまうのではないでしょうか。
また,「生物関係は暗記偏重で人海戦術」とか「化学は実験が多くて大変」とか,「理論はかっこいい」といったステレオタイプもあると思います。
中には高校時代から物理の専門書を読みあさっているような人もいますが,一般的にはこういうまともな興味を持てる人は少ないのではないでしょうか。
物理は流行によってドロップアウトすることがない点も強いです。応用化学,船舶などはかつてトップレベルの学科でしたがオイルショックでいったん底辺に落ちたことはよく知られています。最近では原子力工学がやられました。さらに近年生物系の凋落が始まっています。
元来物理は難しい科目です。全国的に受験生の理数型学力が低下する中で,東大をはじめとする難関大学の理系学部受験生は,物理のできる希少な存在となっています。英語や数学ができるのはあたりまえとして,さらに高校時代「物理が得意だった」という経験をもつ人がそのまま物理学科を希望するのかもしれません。
 最も大きいのはやはり「一貫して点数が高い」という点でしょうか。これまで点数の世界で生きてきた受験生は,学科の社会的評価よりも点数で判断することが多いように思われます。実際には,物理学科からの民間就職は工学系に比べて相当に厳しくなります。ただし,東大の物理学科に関しては大学教員のシェアをかなり確保しているようです。

 理論物理に惹かれていても,実際には物理学は実験の連続です。データをもって証明しないと論文になりません。その実験は,基礎的であるために,「超高圧」「超高電圧」「超低頻度現象」など,極端な環境での測定が主流になりますので,実験設備も大掛かりなものになります。そのため,学生の人数に比して設備が少なく,順番待ちとなることがあります。

 半導体やレーザー・超電導など話題性のある研究はどちらかというと,工学系学部にもっていかれてしまいます。こういう分野では理論的な事後的説明よりも,マテリアルの合成技術やパフォーマンスが先行するからです。さらに,実験設備は民間企業の電子・機械工学系の人が作ったものなので,計測を主眼とする実験データのうちめぼしいものは機器購入の時点で既に企業に取られていたりします。

 近年の理学系物理学科の研究の流れとしては,境界領域への進出があります。たとえば量子化学です。これは,有機化合物・金属触媒・酵素・生理活性物質などの分子軌道をコンピュータでシミュレートして機能を説明しようとするもので,端的に言えば,生物・化学系で普通に行われている分野へと進出しているといえます。

 なお,過激な言い方になりますが,日本の理工系学部から出てくる研究成果の多くは,企業で既に数十年以上前に行われ,闇へと葬られたデータだといっても過言ではありません。米国の大学が企業の研究をそのまま(研究者ごと)誘致しようとするのと対照的です。

 そんなわけで,学科選びの際にはその学科の院生レベルの人に情報をもらうのがよいと思われます。研究室を訪ねていってもいいと思います。理工系の研究室は暗く汚いことが多いので,カルチャーショックに陥らないよう念願します(笑)。




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